人口密度の高い場所から身を引いて、 少し静かな一角の壁に背中を押し付けた。 手にしていたワイングラスの中身を見つめ、 ゆらゆらと波打つ赤紫色の液体を体内に注ぎ込んで、 あまり得意ではない周りの明るさに少しだけ眩暈を覚え眉根を寄せる。


「こんばんは」


床に敷かれたカーペットはワインと同じような色をしていて、 聞こえてきた声に顔を上げると、もう見飽きた、マゼンタのドレスを纏った女が立っていた。 今夜は赤に見舞われる。
あまり派手とは感じさせない女だった。目が合うと女は満面の笑みを見せ、 その表情で誰だか直ぐにわかった。


「変わらないのね」
「君も・・・いや、大分女らしくなった」


彼女はクスクスと笑みを零す。 互いのグラスがカチッと音を立ててぶつかり合うと、彼女だけが縁に口を付けた。 隣に並んで、僕と同じような格好で背を壁に預ける。 揺れて肩から落ちる髪は、あの頃より長くなったか、と頭の片隅で思った。


「ボンゴレよね、雲雀は」
「そう。君は確か、」


「ボヴィーノよ」そう言ってまたワインを喉に通す。 彼女、とは10年前、幼いながらも彼女が仕事で日本を離れ外国へ発ったその時から、 一切の連絡を絶ったキリだった。 まさか、この社交界で再会するなんて。
仕事は落ち着いたのかと尋ねると、は笑って随分前にね、と言った。 手が汚れたから、なかなか帰るに帰れなかったと、今度は苦笑しながら付け足した。 足元を見つめながら、無言で話を聞く。


「私、ずっと会いたいと思ってたの。雲雀に」


落としていた視線を上げた。隣にいるは、 あの頃とは比べものにならないぐらいに大人びていて、 どこか遠くを見つめながら薄い微笑を浮かべている。 艶のある口元が、シャンデリアの灯りをうけてほどよく光っていた。


「ランボに、あの子に恋人が出来たのよ」


知ってた?と言って、彼女は会場の中央を指差す。 その指先に視線を伸ばすと、僕の中ではうざいと認識されている男と、 同じ歳ぐらいの女が楽しそうに笑っている図があった。 その女の着ているものを見て、久しぶりに蒼を見た気がする、と思った。 しかし、牛の男に恋人が出来たことと、が僕に会いたかったことと、 どういう風に繋がるのだろうか。


「・・・よく、意味が理解できないな」
「あら、物分りのいい雲雀恭弥さまなら、イケると思ったんだけど」


訝しげな表情で見つめられたは、わざわざ僕の目の前に移動してきて、 ギリギリの位置までずいっと顔を近づけてから、 声のトーンを抑えて「私まだ雲雀が好きなんだよね」と、 先程までとは違う、昔の彼女の口調で言ってのけたのだ。 ランボの恋人は、今恋をしているからすごく輝いているの、とは言う。


僕は目を見開いて、悪戯っ子のような、 けれどひどく真剣な眼差しを向けるに視線を返す。 グラスに少しだけ残っていた赤紫色の液体が、 マズルカを踊るようにまた、ゆらゆらと揺らめいたのを右手に感じながら。
会場のざわめきが、一気に遠くなった気がした。




マゼンタ・マズルカ


(だったら僕らも、今すごく輝いてるよ。お互い恋してる なんて)

  07327...大人になったキャラ達を書くのに嵌っている。 ランボ夢で書いたあおいショウウィンドウとリンクしてます。

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